毒をもって毒を制す?ウォッカで失明しウイスキーで視力が回復した男の話



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『毒をもって毒を制す』

悪いものを排除するために、別の悪いものを用いるという事を例えた、ことわざですね。

これはまさにその『毒をもって毒を制す』を地で行くような話です。

ウォッカのせいで失明した男性を診察した医者が治療に用いたのは、なんとウイスキー!?

いったいどういうことでしょうか?




■パーティーで昼からウォッカを飲んでいたら・・・

事件の主人公は、ニュージーランド北島、タラナキ地方在住の男性、デニスさんです。

その日は両親の結婚50周年を祝うパーティーが行われており、デニスさんは昼間からウォッカを飲んでいました。

ウォッカを数杯飲んで程よく出来上がってしまったデニスさん。一眠りして酔いを覚まそうと二階の寝室に上がったところ、急に辺りが暗くなりだしました。

まだ日が暮れるには早い時間のはずですが、デニスさんは飲み過ぎで時間を勘違いしていたのかと思い、とりあえず室内灯を点けようとします。

しかし、手探りでスイッチを探している合間にも、周囲はどんどんと暗くなって、ついには完全に何も見えなくなってしまいました。

普通なら、この時点で異常に気づきそうなものですが、酔っていたせいか、デニスさんは『一眠りすれば治るに違いない』と思い、そのまま寝てしまったそうです。


■メタノール中毒

しかし、翌朝になっても視界は元に戻らず、ようやく事の重大さに気づいたデニスさんは奥さんに付き添ってもらい、病院へと向かいました。

デニスさんの容態を聞かされた医師は、デニスさんを緊急治療室に運び込み、奥さんに命の危険性があることを説明しました。

デニスさんは典型的な『メタノール中毒』に陥っていたのです。




■メタノールとエタノール

メタノールはメチルアルコールとも呼ばれ、文字通りアルコールの一種ですが、酒に含まれるエタノール(エチルアルコール)とは別種のものです。

メタノールは人体に有害で、特に網膜の視神経を傷つけ失明する性質があることで知られています。

しかし、エタノールと違い酒税法の対象にならないことから、しばしば密造酒の製造に使われることもあります。

日本でも戦後の混乱期にはメタノールを使った密造酒や、単にメタノールを水で割っただけの『カストリ酒』と呼ばれる代物が出回り中毒者が多発、失明したり死亡した人も少なくありません。

メタノール中毒の一般的な治療法として、医療用エタノールを直接胃に流し込む方法が知られています。

メタノールもエタノールもアルコールです。どうしてエタノールでメタノール中毒を治療することができるのでしょうか?


■メタノール中毒を治療できるワケ

メタノールで失明するのは、網膜のアルコール脱水酵素がメタノールが体内で変化したホルムアルデヒドという毒素と結びついて細胞を損傷させるためですが、このアルコール脱水酵素は、メタノールよりもエタノールに優先的に結びつく性質があるのです。

つまり、エタノールを摂取させることで、メタノールを細胞から分離して体外に排出させることで、メタノール中毒が緩和される、ということなのです。

デニスさんを診察した医師も、エタノールによる治療を試みようとしました。ところがこの時、病院には医療用エタノールが不足しており、使うことができませんでした。

そこで医師は看護師に近くの酒屋からウイスキーを買ってくるように指示をしたのです。

看護師が買ってきたのは有名なスコッチウイスキーの『ジョニーウォーカー黒ラベル』だったそうです。世界中に名を知られたブランドのウイスキーであり、もちろんメタノールを含むような密造酒ではありません。

医師はそのウイスキーをデニスさんの胃に流し込んで治療を行い、その容態を観察。

デニスさんは病院に運び込まれてから昏睡状態に陥っていましたが、5日後に意識を取り戻し、その時点で視力は完全に回復していたということです。

実に機転の効いた面白い話……ではあるのですが、疑問を提示している人もいます。

デニスさんは視力を失ってから丸1日の間その状態を放置しており、仮にウイスキーのエタノールでメタノール中毒を治療できても、すでに損傷した網膜の視神経が元に戻るとは考えられない、というのがその根拠です。

どちらの話が正しいかは、デニスさんの詳しい症状が分からない以上、判断することができませんが、

いずれにせよ、酒を飲み過ぎたり、粗悪な酒を飲むのは止めたほうがいいということだけは確かなようです。




■おわりに

メタノール中毒は失明しやすいことから、戦後の日本では俗に『目散る』と呼ばれてたこともあるそうですよ。
 

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