アシタカは本当にジブリNo.1の女たらし?時代背景を交えて考察してみた



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「もののけ姫」は、1997年に劇場公開されたジブリ作品です。興行収入193億円を記録し当時の日本映画の興行記録を塗り替えた大ヒット映画です。

狼に育てられた「もののけ姫」と呼ばれる少女サンと祟り神の呪いに掛かった青年アシタカの出会いと、二人を巡る人と森(自然)の物語です。

ジブリ作品には珍しく日本を舞台にした時代劇で、歴史や信仰が絡むシリアスな物語の為、少々難解な部分があり、どちらかという「大人向け」のアニメでした。

その為一度見ただけでは分かりづらいと言う声が多く、たくさんの批評や考察がネット上でも行われました。

その中でも、もっとも多く見かける「ある」エピソードについて、少し考察してみたいと思います。




■イケメン・アシタカは、女の敵!?

それのエピソードとは、主人公アシタカに関するものです。

アシタカは、宮崎作品では1、2位を争う程のイケメンで、女性人気が大変高いようです。しかしそのアシタカファンの女子にさえも、大変不評なエピソードがあります。

それは、アシタカが故郷の村を出る時に、カヤという娘から貰った玉の小刀をサンにあげてしまうというエピソードです。

「自分を慕っている女の子からのプレゼントを、他の女にやるなんて!!ひどい!!」

「これにはかなりガッカリ」

「アシタカは二股かけてるの!?」

などという批判的な声が多い事にとても驚きました。

確かに一見すると、男としてひどいなと思っても仕方がないと思います。無神経な行為に取られても仕方ないでしょう。

女心が分かっていない。そう思われても仕方ありません。

でも果たして本当に、アシタカはひどい無神経な男なのでしょうか?


■「もののけ姫」の時代背景としきたり

まずはアシタカのいる世界の時代背景を知ることが必要です。

アシタカの故郷である村は、東北地方にある小さな村です。

“大和との戦に敗れ五百十余年”という台詞から想定するに、774年から続いた俗に「38年戦争」と呼ばれる、大和朝廷と英雄アテルイ率いる蝦夷の戦いの事だと思われます。

アシタカ達の一族は、アテルイの子孫である蝦夷で絶滅に瀕した一族です。また、アシタカは一族の中でも数少ない若者の一人で、将来の族長候補でもありました。

「38年戦争」から五百十余年という事は、1300年後期頃と思われます。時代的には鎌倉時代の末期か室町時代の頃で、神や呪術が信じられていました。

村を守る為、祟り神を殺めたアシタカは呪いを身に受けてしまいます。

例え村を救った英雄であっても、呪われた身となっては村に留めておくわけにはいきません。アシタカの一族はそれでなくても絶滅に瀕した一族なのです。

呪いを受けた者の末路は「死」。村を追われることになったアシタカは、髻(もとどり)を切り落とします。

この時代の男子にとって、髻を切るという事は「出家する」という事です。

髻は「生命そのもの」の意味があり、それを切り落とすという事は死ぬのと同じ意味で、俗世(人の世)との縁を断ち、出家(あの世・仏門)するという事は、つまり「人間ではない者になる」という意味なのです。

ですから、アシタカが髻を切ったのは、故郷の村では「アシタカという男は死にました」として、生涯二度と村に戻る事はないという証でもありました。




■カヤが渡した玉の小刀は副葬品?

村の娘カヤは、将来アシタカの嫁になるだろうと思われていた娘でした。

カヤがアシタカの事を『兄様』と呼ぶので誤解している人もいるようですが、この時代、自分より年上の男性を「兄様」、年上の女性を「姉様」と呼ぶのは一般的な事でした。

それは、血縁には関係ありません。

カヤが渡した玉の小刀は『乙女が変わらぬ心の証に贈るもの』で、将来婚姻の際に相手に送るつもりだったものだろうと推測されます。

カヤはそれを禁を破ってまで見送りに出て、アシタカに渡します。これは死者の棺に入れる副葬品と同じ意味ではないかと思います。

カヤは、好いていたアシタカに贈るつもりだった小刀を他の男には渡すつもりはありませんから、人ではなくなったアシタカに渡したのです。

恐らくカヤはその後、別の男の元に嫁いでいったでしょう。


■サンに渡した『乙女の心』

アシタカは、サンに「人として生きろ」という道を説きます。獣(狼)ではなく人間になれといいます。

だからこそ、玉の小刀をサンに渡したのではないかと思うのです。

前述のとおり、玉の小刀には『乙女が変わらぬ心の証に贈るもの』という意味があります。つまり『乙女の心』なのです。

サンが持っていない物。それは人間の心、人間の女性としての心です。

人ではなくなったアシタカが、玉の小刀を持っていても仕方ありません。

カヤはそれを渡すことでアシタカとの縁を諦めた。アシタカは、カヤの想いには答えられないが、カヤの気持ちを分かった上で受け取った。

だからこそ、玉の小刀を持つべき相手に渡したのです。

それは現代の私たちが思う「プレゼント」という意味合いの物とは、まったく異質なものだと思った方が良いでしょう。




■おわりに

アシタカが本当に女心の分からない無神経な男であったのならば、カヤが玉の小刀を渡そうとした時に

「それは別の人に渡せばいい、きっともっといい人が現れるよ」

なんて言って断ったのではないでしょうか。

「変わらぬ心の証」である玉の小刀です。それをアシタカが受け取らなかったら、カヤはずっと報われない思いを抱いたまま生涯一人で生きなければなりません。

現代とは違います。この時代、嫁に行けない女性は女として不遇な者と言われ、生涯肩身の狭い思いをして生きなければなりません。

いえ、むしろ女一人で生きていけるような時代ではありません。

誰かの嫁になり、子を産み育てて、はじめて女として生きることが出来たという時代です。

死者の棺に入れる副葬品のように、旅立つアシタカに渡すことによって、カヤもまた新しい人生を生きることが出来るのです。

このような解釈はいかがですか?
 

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